トラック産業の将来を考える懇話会・近畿国交省交渉

2016年3月11日、衆議院第2議員会館で「トラック産業の将来を考える懇話会・近畿」の国交省交渉が行われました。民主党衆議院議員辻元清美(元国土交通省副大臣)の紹介により、かねてから業界改善の取り組みとして、近畿運輸局交渉を重ねてきましたが今回初めて中央交渉が実現しました。

冒頭、「懇話会・近畿は約5年前に大阪の中小零細企業と労働組合が労使共同で立ち上げました。志を同じくしてお互いに意見を出し合い、年2~3回の学習会を通じてトラック産業の将来を試行錯誤しているところです。この会には若い世代の経営者も多く、労使一体となり会社を支えて真面目に経営にとり組んでいる企業が、業界に残っていけるような形にしないと将来の物流がどうなるのか危惧しています。私たちは中小零細企業の声を届けますので、真摯に受けとめ行政の立場から業界改善に向けた実効性ある措置を講じて頂きたい」と訴えました。

『トラック業界への政策を要請』

「バス業界は利用者が国民なので死亡事故が起こればマスコミが取り上げ社会問題になる、一方でトラック業界は荷物を運ぶので、バス運転手より遙かに多くの運転手が事故で亡くなっていても、社会問題に発展していません。日本の物流の根幹を担うトラック運送が今の状況でいいのか危惧しています。今年1月に発生したツアーバス死亡事故を受けて、政府や貴省を中心にワーキンググループの中で料金を含めて対策されると聞いています。トラック業界も圧倒的に多い中小企業の立場を踏まえ、政策的な反映をして頂くため今回の要請に至りました。」と、現状の考え方と今後の方向性を国交省に求めました。

『今後の対策を議論』

これに対し国交省側は「大前提として問題意識は共通しています。トラック業界の労働者は長時間・低賃金で働いているので、人が集まらない環境にあることに行政として危機感を持っています。また最近では荷主側も危機感を持ちはじめています。現在、取引環境や長時間労働などを改善させトラック業界の魅力の向上と経営の健全化により人が集まる業界へ、そして日本の物流を支えるため、国交省・厚労省・事業者・荷主・労組で協議会を立ち上げて対策を行っているところです。」「中小企業の取引改善については国交省のみならず政府全体も非常に問題意識をもっています。昨年12月、内閣官房世耕副長官をヘッドに関係各省庁とで、実態を踏まえどのような対策が出来るのか協議会を設けました。現在、状況把握するため調査を行い3月中に取りまとめ今後の対策を議論することになっています。」と回答しました。

『個別要請の回答』

*参入基準については「今すぐ20台にすることは難しいが、2011年に最低車両台数についてのワーキンググループを立ち上げ、どうあるべきか議論している。小規模事業者になればなるほど違反者が多くなるとは限らないものの、不適格者がいることは間違いない。そういう業者は市場から出てもらい、適正な競争関係で競い合うことが重要です。しっかりと財務基盤にたった会社でないと不適正な競争に関与するので、自己資本の割合を強化することや参入基準・荷主勧告制度の運用強化あらゆる手段で不適格者の退出を促す措置を講じて行きます。」

*基準運賃については「コストを加味した運賃の収受は非常に重要です。しかし、荷主からみると実運送事業者は立場が弱く適正運賃を貰えていない現状は国交省も認識しています。どのようにすれば安全コストを取り、適正な利潤を上げ事業が成り立つか考えているところです。2月19日開催の第3回の協議会で運賃議論が始まりました。運賃は事後届けですが、目安(基準)を設けるのか、原価計算が出来る仕組みを作るのか、有識者や公正取引委員会など幅広く意見を聞きながら協議会の枠組みで、適正な運賃収受の環境つくりを進めていきます。」

*コンプライアンス違反事業者の行政指導強化については「悪質事業者を退出させる取り組みとして、2014年に改善基準告知の著しい遵守違反(点呼と定期点検無実施、運行管理者と整備管理者の無選任、名義貸し)に対しては、30日間の事業停止(よほど体力がなければ廃業に追い込まれる)の処分基準を強化しました。運行管理者は2015年に全ての事業者に義務づけを行い、集中監査で5事業者が処分を受けました。今後も集中監査を実施し悪質事業者の摘発を行います。社会保険未加入については、2015年新規参入事業者チェックを開始するとともに改善指導を行いました。9年前の26.7%から15.1%ととなり効果は出ている。今後は厚労省などと連携しながら取り組み強化を図ります。」

*利用運送事業については「2015年実施の実態調査で一部の利用運送事業者にトラック運送事業にかかる法令との理解が不十分であることが判明した。対策として事業者に対し法令の理解を高めるため講習会への参加要請、荷主勧告制度と連携した監査の強化、地方運輸局に適正取引の相談窓口の設置。実効性を高めるためには、適正な取引について問題が生じれば、相談窓口を利用しもらい、それを端緒として必要な監査を行います。」

*利用運送事業の規制強化については「問題がある業者もあるが、荷主との運送契約に基づき実運送事業者に替わって物流のコーディネート(営業活動・運賃値上げなど)を行う事業者も存在している。一律に規制すると自由な営業を制限することや実運送事業者に影響を与えることになるので規制の強化は困難です。」

*大型・中型免許取得に対する助成金について「トラックドライバーの確保は重要なことです。現在厚労省のキャリア振興助成金、トラック協会の中型免許助成金制度があるので活用してほしい。来年準中型免許制度が施行となれば新たな助成金制度への働きかけを行っていきます。」

*非正規雇用への規制については「トラック運送業はスキルが必要な業種なので、さすがに日々雇用や2ヶ月以内の有期雇用は認めないと定めています。しかし、どこまで許容していくかは議論が必要です。国交省の理解として非正規雇用は不安定雇用であり人が集まらないので処遇改善に取り組み、若者にとって魅力ある産業とすることが一番重要と考えています。具体的には長時間労働の削減と適正運賃の収受について、いろいろな意見を聞きながら今後しっかり取り組みます。」

『回答に対する意見交換』

(企業・労組側)「近畿運輸局の対応とは異なり、それぞれに回答して頂いたことに御礼を申し上げたい。しかし、私たち中小零細企業は非常に立場が弱く、原価計算した運賃を荷主に求めることは出来ない。基準、下限、認可、何でもいいので国の方で一つの目安とその拘束力を設定して頂きたい。運賃やコンプライアンスについては一定国が押さえ込まないと、今後魅力ある産業に変わらない。国民に物が届かず本当に困らないと、それが判らないと思います。」

(企業・労組側)「港湾荷役は下請制限があり、一次下請しか認められてない。トラック業界は下請制限がないので、簡単に事業者が下請に依頼する、そして重層化が進み運賃が下がる構図が常態化している。国が規制緩和で自由化を進めた結果、いろいろな問題が発生していることを認識するなら、見直しや法的規制が必要です。今後具体的な対策と歯止めを行って頂きたい。」

(国交省側)「下請関係の適正化は重要で底上げが出来ていない。具体的にどうやるのかは、2019年まで継続する協議会の中で議論していきます。」

(企業・労組側)「残業時間が60時間を超えると5割増の制度が適用されるとトラック労働者の基本賃金は最低賃金スレスレになる可能性がある。この制度は中小企業にはハードルが高く社会保険未加入とリンクしている。違法脱法行為が多い中小企業に対して監査する体制が出来ていない。しかし、監査を強化するだけでなく、監査の中で違法行為を改善させる取り組みが必要ではないか。規制緩和が産業にとってどうであったかをしっかり検証すべきで、そのためには国交省はもっと努力して頂きたい。」

最後に「懇話会・近畿」の意見をワーキンググループの中に反映して頂きたいと締め括りました。 国交省側は、今後様々な意見を聞きながら具体的な対策を進めていくことを確約しました。